概要
秋吉台国際芸術村 Akiyoshidai International Art Village レジデンス・サポート・プログラム Residence Support Program
7 クエンリン・サイはこれまで、パイプを使った様々なインスタレーションを制作してきた。美術館や電車の駅、更にはかつて売春婦のために違法に使用されていた家屋などの空間とオブジェクトの両方を再編成することで、それら空間の持つ本来の意味に挑戦する。更に、周辺地域に存在する様々な音をパイプの内部に反響させることで、鑑賞者が普段聞き慣れているはずの音を、しかしながら普段認識してはいない音を再構築する。芸術村での滞在中、クエンリンは神話や歴史、環境や鉱山などのリサーチを進め、最終的に創作のために着目した素材は、パイプではなく竹であった。芸術村の自然環境から新たな素材の提案を受けたクエンリンは、我々が日常に聞いているはずの音、しかしながら忘れかけている音を、いまいちど我々に鑑みる機会を与えてくれる。 インセイン・パクは、大胆で、時に攻撃的なビジュアルイメージを用いて創作活動を行ってきた。世界中に氾濫する既存のイメージを収集し、そこに彼自身の視点を加えて吐き出す行為を繰り返す。芸術村滞在中、彼は周囲の美しい自然環境を追い求める一方で、日本にいる自身の外国性、さらには韓国人である彼自身だからこそ描き出せるものへの執着が大きくなっていく。やがて、個人的な視点を通して得られる「日本のイメージ」を収集しはじめ、母国の韓国と日本との関係性を探求した。しかし、彼はあくまでも、「これらは二国間の歴史問題を言及するものでもなければ、明確な意見や論争を持っているわけでもない」と主張する。「イメージはあくまでもただのイメージであり、ある状況から収集されたイメージが、映像の中で、ただそのように配置されているにすぎない」のである。 ビジュアルアーティストであるマリ・マキオが興味を持ったのは、皮肉にも、ビジュアル要素が一切取り払われた「洞窟の暗闇」であった。中でも、特に関心を引いた景清洞において、マリは、鑑賞者と自身の暗闇に対する認識に挑戦する。まず、地元の人々を景清洞に招き、「完全な暗闇」を経験させ、次に、彼らの行為によって発せられた洞内の音を拾い集めた。展示の際、この「人工的」に生み出された音は、暗く保たれた空間に設置される。景清洞の暗闇と彼女の展示スペースの暗闇は、こうして相乗効果的に強調し合うこととなる。「暗闇の研究」と名付けられた彼女の作品は、我々に文字通り「暗闇」の学びを促す一方、芸術は経験によってのみ構成されるという事実を、彼女の作品は含蓄しているのだ。 今回滞在した6名のアーティストは、環境や人々、歴史や文化、産業や伝統など、異なる視点からリサーチを進め、それぞれの「この土地の魅力」を見いだした。顕著だったのは、彼らの試みが、私たちがこの土地の魅力として保有していたものを、再度見直し、経験する機会を与えてくれたことだろう。また、創作を進める上で、数多くの地域の方々にサポートしてもらい、交流や友情も多く生まれた。アーティストたちの制作にあたり、ご協力いただいた全ての皆様に改めて厚くお礼申し上げたい。芸術村での55日という滞在期間中に得た経験が、彼らにとって新たなアイデアに繋がっていくことを願いつつ、今後もそれぞれのアーティストが優れた作品を発表し、世界各地で活躍することを祈念している。秋吉台国際芸術村レジデンス担当藤澤 佑介