ブックタイトル秋吉台国際芸術村 Akiyoshidai International Art Village レジデンス・サポート・プログラム 2017-2018

ページ
8/100

このページは 秋吉台国際芸術村 Akiyoshidai International Art Village レジデンス・サポート・プログラム 2017-2018 の電子ブックに掲載されている8ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

秋吉台国際芸術村 Akiyoshidai International Art Village レジデンス・サポート・プログラム 2017-2018

6「trans_2017-2018 この土地の未来 “The Future of This Land”」について 本年の秋吉台国際芸術村(AIAV) のアーティスト・イン・レジデンス(AIR) プログラムとしてのtrans_2017-2018 では、昨年度に引き続き、この土地の未来(The Future of This Land)という副題あるいはテーマを課しての募集となった。応募総数は450 件近く、世界各国からの応募があり、AIR を行っている施設は世界のアートシーンの一端を担う重要な役割を追っていることを今更ながら感じた。その応募の中で今回選ばれたアーティストは日本のケンジ・ヨシダ、エジプトのミナ・ナスル、ポーランドのエヴァ・ウェソロフスカであった。また秋吉台国際芸術村( 以後AIAV) は海外のレジデンス施設との提携を行っており、trans_2017-2018 に韓国のキョンギ・クリエーション・センターからスジン・イを、台湾の台北国際芸術村からはイーシン・スーを、フィンランドのフィンランドセンターからはカトリ・ナウッカリネンを推薦派遣していただき、総勢6 名のアーティストの参加するAIR プログラムとなった。 以下にそれぞれのアーティストについて触れる。 韓国の大学で絵画やフィルム& シネマを学んだスジン・イ(Sujin Lee)は独特の形式のビジュアル・アートを展開している。都市化における物語や時間に関する現状を再文脈化するという意図の元、AIAV では様々なキラキラ光る人工物やAIAV の建物周辺の自然環境に由来する自然素材をアーティストの意図に従い周到に折り合わせたようなインスタレーションをスタジオと丸石を使った枯山水のような様相の中庭に設置した。さらにこのインスタレーションはオブジェとして機能することだけが目的ではなく、これを鑑賞する観客は音声ガイドを聞きながら、あらかじめ決められたルートを指定のマップを見ながらガイドに従い3階から中庭、またAIAVの裏庭に出て、森と建物の隙間などのチェックポイントを巡るというものであった。ガイドの音声内容はSF 的なストーリーや抽象的な定義などが語られていた。観客は見慣れているものを、初めて見るような状況に置かれ、改めて新しい角度からものを見たり、体験することを再考させられる仕掛けであった。 台湾生まれでドイツのベルリンとライプツィヒを拠点に活動するイーシン・スー(Yu Hsin Su)は儀式または美的な出来事としての山焼きを考察するために、山焼きと長者が森のリサーチを行った。「自己」「時間」「場所」「身体」を交錯させるガストン・バシュラールの「詩的な瞬間」の考え方を自身のビジュアル・アートに応用しており、今回の作品もバシュラールの提起する思想のもと、立木と燃え上がる炎の関係をモチーフとした作品に仕上げた。作品の一部としてのオープニング・パフォーマンスで、花柳寿寛福による舞踊とインスタレーションのコラボレーションが行われ、先述の「自己」「時間」「場所」「身体」を断片的に想起させるような演出となっていた。ミラーウォールがある部屋にスライド・プロジェクターからの映像が映し出されることで虚像としての空間が広がって見える他、垂直に設えられた光を反射する特殊なフィルムが天井に炎のようなリフレクションを映し出していた。 日本人としてこのプログラムに唯一参加したケンジ・ヨシダ(Qenji Yoshida) は、地域における当事者と他者性をキーワードにして、AIAV がある美祢市に住む人たちと交流し、地質や風習などのリサーチを行った。彼のテーマは翻訳や翻訳の過程の中で大切な意味が失われてしまう謂ゆる「ロスト・イン・トランスレーション」の状態を利用することで、言語間や文化間の“間”の領域を探索しているという。本展の作品でも内と外の関係や境界について様々な仕掛けで言及しており、美祢市民やリサーチ中に出会った多数の人たちの映像を重ね合わせた動画作品では、この地域に住む人たちの輪郭が、捉えられそうで捉えられない。人々の面影だけが網膜に残ることは、実像が捉えにくくて居心地の悪さを感じる一方、出会ったことのある人とそうではない、らしい人との距離や境界ということを改めて感じることは反対に心地良い体験でもある。他のアーティストの作品をあえて境界のサインとして挿入した作品もあり、自己の作品という定義における異物感を作品化する、メタレベルでの作品もあった。 エジプトのカイロを拠点に活動しているミナ・ナスル(Mina Nasr)はこのプログラムでは初めてのエジプトからの参加アーティストであった。過去の作品では現在の社会政治学的な出来事をもとに社会を支配する形態の変化について言及している。彼の作品は観察者としての視点をもち、白黒で描かれるドローイングは具象的であり、描かれた対象が持つ瞬間のイメージがそれとは別のベクトルにも作用するインスタレーションとしてのドローイング作品が多い。今回の作品は、母国とは違った環境のもと、秋芳洞の岩層に山口県の人々の集団生活のイメージを溶け込ませるという作品を制作した。カルスト地形に特有の地下洞窟にある自然界の様々な形の変化を、山口県民のライフスタイルに繋げるというアイデアである。最終的な作品は、ロール紙の丸み